aと名乗りし者


 はて、Aはというと、“処事食お”におられ給うて、さぬきのうどんを食され、饗しを受けり。
 学校ではぐれし、B、Cのことを忘れたもうて、浄土に生まれ出でたがごとく、幸せにくらしていた。
「このうどんはなつかしき心、よみがえるさまの味なり。主(店の)、出世するであろう」
 A、あまりのおいしささえ店の主をほめたたえたもう。
 Aのココロ知ってか、遠くのB、Cは何やら胸がムカムカされたもうて、2人、何も語らず。
「あら?B、Cじゃない!」
 A、2人に声をかけたもうて、側によりけり。
「……」「……」2人、復び物を云わで。
「なんでこんなトコロに?」
 Aの気分は今、最超だった。逆にB、C最悪の気分で、Aに文句をたれたもう。
「何なのよ…!」「人が心配してたのに!!!」
 2人、説をとなえたもうて、Aをにらみたもう。
「え?何のことよ」とて、A、2人の心を知らで。
「それより、ここのさぬきのうどんはおいしけり。みんなでたべなんかし」
 A、主にたのみて、うどん3人前だしたもう。
「あら……」B、Aの気付いにカンゲキしたもうて、よろこびけり。
「ダメよ…いらないわ!」C、Bをとめ、いまりめけり…
「こいつはそれがしたちが苦労したこと、何も知らないのよ!老におっかけられたり、森でさまよったり…」
 C、今までためし心、一気にAにはなちたもう。
「え?……そう……そんな事があったの……」
 A、ショックを受けたもうて、悲しさをあらわにせん。
「A、気にしないで。わたし、Aがみつかってうれしいの」
 B、Aをなぐさめ、最上のほほえみをみせたもう。
「うぅっ……かなりけりかなしけり……」
 Aのお泣きくずれし姿にB、
「ごめんね……云いすぎて……」
 と、あやまちをくやみたまわん。
「はっ!?」
 C、いきなり大声を出し給う。B、A、Cの叫びたもう場所をふり返るに、あの、やさしいさま見せたる老人がおられたもう!!
「Aがみつかりて、よきにはからん…」
 老人笑いたもう。
「おじいちゃん、もうっ!!かってにぬけ出して!!!」
 女、出でたり、叫べんと欲っし。
「おぉ、Aがみつかりた……」
「おじいちゃん!!!」
 再びそう叫び、老人をつれ、きえていかん。
「………」3人喋りを知らで。
「あの、ご老人……。もしかしてちほう症だったの?」
 B、あきれるさまして足の力が抜け、地べたにすわりたもう。
「だあれ?あの人」
 A、何も知らで。
「それより、うどんを食べましょう?」
 B、よほど腹がへっていたらしく、一番先にはしを割りたもうて、やがて丼にハシを入れつれ。
「あ、私も!」B、C同時に云うに、A、「まねしないでよ」と、牙を向く。
「え、A?」
 B、いつもとちがうAの様子に気づき給う。
「Aだよね…?」
 Cも同様気づき給う。A、気にせず更にうどんをすする。
「A!!答えてよ!!」
 Cが叫びつるにA、
「私はaよ!」
 と、云い、席を立ちたてまつらん。
「は…大文字じゃないわ!!」
 B、ニセのAと気づき給う!
「何をおほせられまつるか!?我、aと名乗りを上げて15年、そんなコトなきにしもあらぬを!!!」
 とて、説を否定したもうに、C、B、かほを見合わし、反論したまひて、怒り狂ふありさま。
「Aとaはぜんぜん違う!」
「本当のAをかえせーーーー!!」
 ヒステリックなB、Cに、aと名乗る者、しづかに答える。
「我はaなり。aは我なり。我はaと名乗りし者…」
「意味が分からないわ!」
 とて、B、云いまつらん。
「ならば教へよう。Aは……ここにはおらぬ!!」
「えっ!?」「じゃあいづくにかくれけん!!」
「Aはいづちにもかくれてはおらぬ。Aは、もっと遠い所で一人でくらしておる!」
「なんですって!?」「そんな!!」
 2人、aの言葉におどろきをかくせず。
 そんな2人を見、a、笑いたもう。
「そんな…Aはどうやってさがせば…」
 B、弱気になりたもう。
 C、aに向かひどなりたてまつらん。
「Aのばしょを教えよ!さもないと…殺ス!」
 C、主の手にもちたる包丁をうばいとり、aののどもとにつきつけたもう。
「ホホホ」a、消えたてまつらん。
「!!……」2人、更におどろきをかくせで。
「待てー!!」
 C、今さらながら声をはりあげたもう。
「待ちなさーい!!」
 B、みせたことないぐらいの声をはり上げたてまつらん。
 2人、意味無い事を知らで。
「Aのいばしょを知りたいか?」
 なんと、老がまた現れたもう。


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