悟り


「さぁ、よってらっしゃい!みてらっしゃい!!」
「あ!肉まん頭売ってる!!」
 B、よりて、見たもう…。
「う…すごいカホリ…!!人肉?!?」
 B、かんばんを見て、さけびたもう。
 C、やはり気楽に
「入ってみない?」
 と云ふ。
「や、やめない…?」
 と云ふBの言葉も、Cには馬耳東風なり。
 中に入りてCはお店の人に
「肉まん2つください!!」
「2つ…って…あたしもたべるの?」
「当たり前でしょ!食べなきゃわかんないわよ!」
 なんとCは食して人肉の味を確かめようとせん。C、コトの重大さを少しも知らで。
「この事、人道はずれしことまちがひなし!C、いかんせんやめよ!!」
 B、必死にCを留めたもう。
 C、更にきかず。
「やはり人の味は極めなくてはならぬ」
 そのCの表情、筆に書けぬごとく恐ろしや。B、体中の毛、逆立ち給ふ。
 これ、Cに何か物怪がのりうつったが如し!!
 B、Cの背をたたきて云い給ふ。
「吐き出せよ、さもなくばAをえ見つけにはいけず」
 そう叫びつるに、再度しつこくたたきたもうてしまいにはいとくたびれたまひ。
「こやつ…なかなかやりおる」
 B、Cの手ごわさにしばし身を引く。しかしB、あの時の老を思い出しぬ。
「………!やうやうわかってきたなり!あの時のじゅもん、今こそ復言ふ時!」
 B、何かを悟りたまひて、顔をCへ向ける。
「そもさん!」
 そう言って復Cの背を、かつを入れるが如くひと思いに叩かせ給ふ。(←二重尊敬)

 時を同じくし給いてAは一人、いづこの村へと移住したまわんとして身を行じ。
「我、僧になるべし」
 と云い、いづくに隠居せん。
 なんでも、ある老に出逢ったのがきっかけになりて、決意を固めましき。
 その老のこうごうしい様を思い出せば、更に決意強くなりぬ。
 BとCの様子、まったくえわからず。しかしA、気にせず。

 やはりB、呪の効を側し給うてCを教化させたり。
 Cも今ではかほ付きも一変したまひ、正気を取り戻したてまつらん。
「此れはいと喜び事なり、又、いと感気なり」
 とて、Bを一別し、
 川上の 道は明日へ つながれば
 いと 友情の 形現わん
 とて歌い、喋るるに、又Bも後に続かせ給ひて歌を読みなんかし。
 ……ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず
 よどみに浮かぶ うたかたは かつ消え かつ結びて 久しくとどまりたるためしなし……
 語り合う詩は「方丈記」なり。しかし2人この詩を友情の消えるぬうただと気づき、すぐさまやめたもう。
 「友情の消えるぬ」といふことに2人、Aを思い出したまふ。
「肉まん食してる場合ではあらんに…」
「すまぬ、我、制ぎょをえできず、今もう平気なり」
 完全に覚醒したC。
 2人、ふたたびAを探す旅に出でたまふ。
「Aの、もはや我らの存在を忘れましかば、我らが旅、何の意味もない…」
 と、B言ふ。

 Bの予感、当たらずとも遠からじ。
 A、2人の存在を忘れしにあらずが、僧の修行に没とうし、2人の心配、心持ち、何も考えてはおらず。
「我僧になりなんかし、我は世救い人なりて、又、人の世を生きるなり」とのたまひけるらむ。
 しかしその道ほど遠く、遂にはくたびれけん。
「我が足、切り離し、行こうと思いつるのに」
 と悔いても悔やみ切れず。
「やはし我には、僧の道行けず…?」
 A、遂にはあきらめたまいける。
 そこに、Aを僧の道へと導いた、あのこうごうしい僧の、おもかげあらわる。
『汝、そのような事であきらめつるとはなんたること』
「おお…」
 A、涙を流したてまつる。
『道に迷いし時、まわりがえ見えず時、唱えん事、これ“そもさん”なり』
 A、涙にむせびきる間、僧はときたま消えるなり。
 しかし、BC、かのような決意つゆ知らで。
 これ、いと不ざまなり。

 BC、里を訪れたもうて、Aの消息をたずねたもふ。
 しかし誰も知らず。Aはここを通り過ぐることせず。しからば、誰も知る由はなき候。
 そこにあの時の老復あらわる。
「そもじい!」
 今の名は、2人が勝手に老につけし名なり。
「今Aは、一人で悩みし時、しづかに待つべし…」
 そもじい云ふ。
 2人、何のことかえわからず。
「悩んで人は大きくなりぬ。悩まずこと、何も生み出しはせず…恐怖も痛みも知らんと欲す者は必ず成長することまちがひなし」
 2人、意味が解らず立ちすくみたもう。
「我は僧なりて…」老、そう云いかき消えなむ。
 2人、しばらくそこに立ちてぞありける。
「とどのつまり、そもじいマゾは成長すると云いたひのであろう…」
 C、よもや勘違い甚だしい。

 その頃、A、常にそもさん唱えたてまつるに、ときたまくたびれけん。
「やはり我、僧の道遠なんかし…」
 と、はや諦めましかば。
 そもじいは出てこん。そしてA、やはりと思いつる。
「もはや我は僧にはえなれず。潔くあきらめつることがよいかもしれぬ」
 A、僧の道を失くし給い、家へと戻るべく歩き給ふ。その間、さらに後ろをふりむかず。
 そもじいやはりボケ老人なことまちがいなし。


    とりあえず完。

 あにまるへと導く教典…。
 これを読み、あにまるへと還ることを祈りなさい。



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